官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)は、600兆円経済の実現に向けた最大のエンジンである科学技術イノベーションの創出に向け、官民の研究開発投資の拡大等を目指して、平成30 年度に創設された内閣府の制度です。
この制度を受け、国土交通省では、「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」を実施しています。これは、公共土木工事において、デジタルデータをリアルタイムに取得し、これを活用したIoT、AIをはじめとする新技術を試行するものです。
2022年度
今回のPRISMでは主にAI・IoTと言われる新技術を活用。環境に優しい施工、労働時間を削減する技術を開発した。私たちは、材料ロスの低減、JV職員と作業員の労働時間を削減することをテーマとして4つの技術を推進した。AI・IoT技術を支えるために、トンネル内の環境にも耐えられるような車両搭載型の3Dスキャナーの設計、特殊な環境下でも高画質に撮影できるカメラ、高画質なカメラ映像を通信するための光ケーブルを導入した。そして、トンネル内に設置された無数のカメラで撮影した映像をAIが自動的に判断してトンネル内の工事の状況、混雑状況を把握し、リアルタイムで作業員が持っているスマートフォンに通知するなど、無駄な待機時間を減らし勘や経験に頼らない生産性を向上させる成果を生み出した。
01
材料ロスの削減
トンネル工事に必要な材料を削減することができる技術
トンネル工事では掘った箇所にコンクリートを吹き付けて固めながら掘り進めていく。これまでは、熟練の作業員の経験や勘をもとに計算していた。そのため、コンクリートの量が多かったり少なかったりすることがあった。最新の技術では、切羽(きりは)を3Dスキャンすることによって、 断面のサイズを正確に測定することができる。 スキャンによって断面を測定すると、吹き付けるコンクリートの量や、吹き付ける時間をAIが自動判定してくれるので、材料のロスを削減し、吹き付ける時間を削減することができる。
車載のカメラで隅々までスキャン
3DデータをAIが解析
自動判別により適切な材料を算出する
02
作業員の待機ロス削減
トンネル外の作業員の待機時間を大幅に削減
トンネル工事では発破のあとに出てくる土砂をベルトコンベアによって外に出す「ズリ出し」という作業がある。ただ、トンネル外の作業員には「ズリ出し開始と終了」が伝わりづらい。そこで、外にいる作業員の待機時間をなくすために切羽の近い場所にカメラを設置し、そのカメラ映像をAIによって自動判定。作業内容をスマートフォンに通知し、外にあるモニターにも表示させる。中の作業内容が常に外で把握することができるようになった為、外にいる作業員の待機時間を削減することができるようになった。
固定のカメラで常時記録
最新のAI技術で解析
作業員にスマホで通知
03
JV職員の業務効率化
待機することなく通知を受けてから坑内に入れる
トンネル工事にはトンネルを掘る作業員とは別に、工事が適切に進んでいるかどうかを検査・確認する職員がいる。トンネル工事内で、掘削面が適切に掘削されているかや、掘削直後の地質の観察など、さまざまな場面で品質管理業務を行なっている。坑外から坑内の様子を把握することが困難なため、坑内で長い時間、作業が終わるタイミングを「待つ」という待機時間が発生していた。私たちは彼らの待機時間をなくすために、AIカメラでトンネル内の作業を自動判定し、トンネルの外にいる職員のスマートフォンに作業の通知が届く仕組みを構築した。それによって作業中の職員は、待機することなく通知を受けてから坑内に入りトンネルの切羽の写真を撮影したり品質管理に必要な検査を行うことで残業時間を確実に削減することができた。
坑内での作業時間を効率化
工事現場から離れた場所で確認
待機時間を大幅に減らし精度の高い検査を行う
04
重機混雑接触災害削減
重機には狭い坑内をスムーズに行き交うシステム
トンネルの中ではさまざまな大型重機が行き交っている。普通の道路と違い、重機は簡単に入れ替わることがとても難しく「いつ重機を入れ替えるのか」というタイミングはおおよその時間を作業員の経験と勘に頼る部分が多かった。入場したものの坑内が混雑していたために外に引き返し重機接触災害に繋がる恐れもある。そこで、トンネル内にAIカメラを設置し、AIが「進入できないタイミング」「進入できるタイミング」をスマートフォンに自動で通知。その内容を坑口のサイネージにも表示することで、重機がトンネルに入る前に、待機することなくスムーズに入ることができるようになった。
坑内に取り付けたカメラが重機を記録
AIが解析したデータがスマホに届く
トンネル外のサイネージにも表示される
2020年度
01
品質出来形(遠隔立会検査システム)
タブレットを使い遠隔地へリアルタイム配信
現場と発注事務所をインターネットを介して接続し、現場の状況を事務所にいる発注者がリアルタイムで確認できるシステム。発注者の希望する場所にカメラを持っていき、その場で承認が取れる。また、自動で帳票を出力するため、立会後の書類作成が不要になる。施工者・発注者両方の省力化に貢献できる。
モバイルカメラを使い自由な位置から撮影
遠隔地でリアルタイムに確認
詳細な映像をもとにチェックすることができます
02
サイクルタイム画像AI判定システム
作業内容をAIが自動で算出
切羽をAIカメラを用いて撮影し、画像をAIで分析。「いま何の作業をしているのか」を判定する。判定結果をもとに掘削サイクルが自動検出(管理を自動化)される。正確にサイクルのデジタルデータを得ることで、サイクル分析が容易にでき、生産性の向上へとつながる。
切羽を正面から捉えます
重機に取り付けられたAIカメラ
わかりやすいデータとして出力されます
03
車載型スキャナーシステムとは
3Dスキャナーによる測定・データ作成
切羽状況を車載式3Dスキャナーで測定すると、3分以内で三次元点群データが作成される。余掘り・あたり(発破掘削後に設計断面内に残った地山のこと)量を測定。掘削土量を必要最低限に削減することができる。ずり積み時間、吹付け・覆工コンクリート量の削減により、生産性の向上につながる。
自動車のリアに付けられた3Dスキャナー
車載式のため坑内での小回りが利く
わずか3分でデータを取得
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